このシリーズでは、バクラク・国税庁・会計ソフトのAPIで経理の作業をAIに任せてきました。3本書いて見えたのは身も蓋もない事実です——AIがどれだけ賢くても、システムにAPIが無ければ何も触れません。AI前提で経理を回すなら、ツール選定の軸が変わります。見るべきは機能でも価格でもなく、「現場が自分で叩けるAPIが開いているか」です。
連載「経理をAIに任せる」(全4回)
- 「経理はAIに任せられない」の先へ——AI前提の統制を、いま設計する
- 新規取引先チェックをAIに任せたら、合併で消えた会社を見つけてきた
- 経費精算のレシートと明細を、AIに全部突合させてみた
- AI前提の経理は、会計ソフトを「APIが開いているか」で選ぶ(この記事)
AIの限界は「頭」じゃなく「手」
生成AIは賢い。でも、あなたの会計システムのデータを勝手に取ってきて書き戻すことはできません。そこにAPIが無ければ、結局は人が画面をポチポチするしかありません。AIの賢さは、APIが無ければ宝の持ち腐れになります。
選定軸は「機能」から「開かれたAPI」へ
これまでは機能・価格・サポートで選んできました。AI前提なら最優先で見るのは「AIが触れるAPIを、現場の自分たちで叩ける形で開いているか」です。機能が多くてもAPIが閉じていれば、AIは仕事を手伝えません。
大手ERPは「APIが無い」のではなく「自走で叩けない」
誤解されがちですが、大手のクラウドERP(SAP・NetSuite・奉行クラウド等)はAPIを持っています。問題はその先です。多くの基幹システムやオンプレ環境では、API連携がSIer頼み・iPaaS前提・権限とコストの壁で、経理現場が自分でサッと叩ける状態にありません。レガシーなオンプレに至っては、そもそも外から触れないことも多いです。
ここが論点
「APIの有無」で切ると雑になります。正確には「現場が自走で叩ける形に開かれているか」。APIがあっても、ガバナンスやSIer経由でロックされていれば、現場には「無い」のと同じです。
「APIがある」だけでは足りない——4つの落とし穴
APIが公開されていても、次のどれかに引っかかると実用になりません。
- 従量課金:呼ぶほど・人数が増えるほど課金。例えばMFは基本3名まで、4名以上は1名 月300円〜、AI-OCRは101件目から1件20円。NetSuiteはAPIの同時実行数を増やすのに有償ライセンスが要る——スループットを金で買う構造です。
- 使えるモジュールの制限:肝心の機能だけ非対応、があります。MFは請求書・経費・給与・債務支払のAPIは公開ですが、クラウド会計のAPIはクローズド(士業パートナー限定)。「周辺は開いてるのに本丸が閉じてる」型です。
- 操作の制限:読み取りだけ可・書き込み不可、一部項目しか触れない、というケース。「取得はできるが登録できない」だと、AIに作業させる用途では片手落ちです。
- プラン・件数の上限:低プランはリクエスト数や件数に上限。MFは請求書APIが低プランで各帳票100リクエスト、ひとり法人は仕訳500件/年。freeeもレート制限はあります(ただし通常の自動化なら回る範囲・読み書き可)。
だから
「APIあります」を額面で受け取らない。従量課金・対応モジュール・読み書きの範囲・レート上限まで見て初めて「AIで回せるか」が分かります。導入前に開発者ドキュメントで必ず確認を。
国産クラウド会計:freee と MF の決定的な差
ここは感覚ではなく、公開仕様の差で語れます。
- freee:会計APIを公開していて、freeeアカウントがあれば誰でもアプリ登録してすぐ使えます(事前許可なし・OAuth2)。仕訳や取引を読み書き両方できる=AIに会計作業を任せやすい。レート制限はありますが通常の自動化なら回る範囲です。
- マネーフォワード(MF):請求書・経費・給与・債務支払のAPIは公開していますが、クラウド会計のAPIは一般公開されていません(クローズド/士業パートナー限定)。さらに公開APIも低プランはリクエスト数・仕訳件数に上限があり、人数に応じた従量課金も乗ります。
注意:仕様は変わる
MFが劣るという話ではありません(会計以外のAPIは充実しています)。「会計データそのものをAIに触らせたい」という今回の文脈で、現状はfreeeが有利、という意味です。API公開範囲・料金は各社の最新ドキュメントで必ず確認を。
今後、APIの公開度が「標準」になる(見立て)
AIで生産性を出すのが当たり前になれば、会計APIを閉じたツールは選ばれなくなります。そうなればベンダーも開く方向に動かざるを得ません。だからいま、「現場が叩けるAPIが開いているか」でツールを選ぶのは、将来への投資です。AI前提の経理は、もう始まっています。
このシリーズで言いたかったのは結局これです。AIに任せられる範囲は、AIの賢さではなく、あなたのツールがどれだけ「開いているか」で決まります。
参考(公開情報)
- freee: Public API(利用条件) / 会計APIリファレンス
- マネーフォワード: クラウド会計APIについて / 従量課金・オプション料金
- NetSuite: Concurrency Governance Limits(Oracle)


